「槙野だったら、何味にする?」
屋上は地上よりも風が強く吹いている。外はもうすっかり寒い。昨日の花火で錯覚しそうになるけれど、もう冬なんだなと思った。

制服の裾が風に揺れる。いつかも、あの時は涼太と屋上で話をした。高ニの十二月。冬休み前だったと思う。ヤヨちゃんとかき氷の味について話していた頃だ。あの時も今日と同じように制服の裾が揺れていた。

「昨日まではあんなにカラフルだったのに。一気に日常に戻っちゃったね。」

屋上のフェンス越しに運動場を見下ろしながらヤヨちゃんが言った。

「うん。そうだね。」

賑やかでカラフルだった運動場も校門も、教室も今は見慣れた色に戻っている。

「片付け、大変だったね。」

ヤヨちゃんが言って、「本当に。」って僕は笑った。まだ少し片付けきれていない所はあるけれど、大まかな所は片付け終わっていて、準備は一瞬なのに終わったら呆気ないなって寂しく思う。

「ヤヨちゃん。どうしたの。」

僕は出来るだけ自然に、ヤヨちゃんが僕を屋上に誘った理由を訊いた。

「うん。あのね、確かめておこうと思って。」

「確かめる?」

「うん。槙野は、私のことを好きで居てくれるんだよね。この先も。恋愛として。」

「うん。」

僕はもう自分の気持ちを隠さない。その気持ちがヤヨちゃんを苦しめてしまうことがあるかもしれない。それでも自分の気持ちはもう消せないから。

「私にとって、槙野は槙野だよ。この先も。今までの、私の知っている槙野。私が思う、好きな槙野で、この先もそう思って、一緒に居ていいの?」

ヤヨちゃんはずっと運動場を見下ろしている。僕も同じ様に運動場を見下ろし続ける。ヤヨちゃんのスカートが風でふわっと舞う。手で抑えながら、その手で風になびく髪の毛をスッと耳にかける。ヤヨちゃんの栗色の髪の毛が胸の辺りまで伸びていることに、今頃気がついて、去年の夏休みからの時間の流れを想った。

ヤヨちゃんが何を言いたいのか、僕にはもう分かっていて、その曖昧な「僕」が、ヤヨちゃんや涼太を困らせていたことにも、本当は気づいていた。
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