「槙野だったら、何味にする?」
屋上に吹く風がけっこう強くて、ヤヨちゃんのスカートが何度もふわふわ浮き上がった。ヤヨちゃんはそのたびに面倒くさそうにスカートを手で抑えた。

僕の、スカートも浮き上がるけれど、僕はジャージを履いていたから気にしていなかった。髪の毛もショートカットだから、ヤヨちゃんみたいには風に流れない。
春も夏も秋も、冬も。僕の「制服」は変わらない。

女の子扱いされることが苦痛だった。
僕は男だ、とはっきりと強く思っていたわけじゃない。ただ、僕は女子の中でも身長が小さくて体も細かった。涼太や周りに女子扱いされること、体育の授業は女子のチームに分けられること、ヤヨちゃんが僕の前では平気でシャワーも浴びられること。
それが「なんとなく」嫌で、小さな違和感となって僕の中にずっと在り続けた。

ヤヨちゃんのことが好きだって確信した時、はっきりと自分が男だって確信していたわけじゃないけれど、それでもヤヨちゃんを恋愛として好きだなんて、まるで自分がおかしいんじゃないかと思って、苦しかった。同性愛に偏見があったわけじゃない。だけど、自分のこととなると、頭が混乱した。

それでも僕は、ヤヨちゃんが涼太を好きだって気がついていても、ヤヨちゃんが女である僕を好きになれないのなら、僕は男になりたいって強く、強く思った。
僕が女だから、ヤヨちゃんは僕を好きにならない。変えられない事実が毎日少しずつ僕を苦しめる。小さく膨らんだ乳房も、毎月くる生理も、涼太みたいになれない筋肉も、声も。

泊まりがけの「文化祭合宿」が終わった日、ヤヨちゃん達が、「バイバイ、槙野。」って僕に手を振った。少し遅れて涼太が「じゃあな。槙野。」って言った。
涼太は泣きそうな目をしていた。

僕がどれだけ足掻いても、僕は女だ。変えられない。涼太の目に、そう言われた気がした。
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