「槙野だったら、何味にする?」
「俺がヤヨにはっきり言わなかったのは、お前の恋が終わればいいと思ってたのかもしれない。
ヤヨの恋が終わってしまうことで、俺の…、俺の恋も終わってしまうと思ってた。」

「どういう意味?」

涼太の懺悔の様な独白は、まるで初めて聞く言葉みたいに僕の中から通り過ぎていく。涼太の言葉のその意味を、理解してしまうのが怖かった。

「槙野。お前の恋が叶うことは無い。どれくらい、あと何十年想い続けたって、槙野の恋は叶わない。俺がヤヨを拒絶しない限り。ヤヨが俺を好きでいる限りずっと。そう思ってたんだよ。俺は自分の損得の為にヤヨも槙野のことも…、大事な親友を傷つけて壊し続けたんだ。」

苛立ちなのか、涼太に対する哀れみなのか、ただ自分の恋は叶わないと、そう突きつけられた痛みなのか分からない物が、グチャグチャになって僕を縛りつけていく。

誰になんて言われたって消せないヤヨちゃんへの想いや、壊したくない涼太とのこと。でも、涼太はもう何もかも終わってしまうかもしれない覚悟で、僕に打ち明けている。
終わってしまっても貫きたい想いを。

「涼太は、何を守りたかったの。」

聞いてはいけないことだと分かっていた。もう戻れないかもしれない。
どこかで気づいていても、気づかないふりをしていれば、何も変わらない、終わらないと思っていた。でも、目の前で震えている涼太の手のひらから目を逸らすことができなかった。

ぽつ、ぽつ、僕と涼太の頭の上にも、腕にも、手のひらにも、制服にも雪が落ちていく。
もう本当に風邪を引いてしまうかもしれない。

「槙野…。」

涼太は僕を呼んで、それからゆっくり、ゆっくり息をはいて、「雫。」って僕の名前を呼んだ。

「うん。」

もう、言わないで、って思った。でも、聞かなきゃいけない。涼太を大切だと思うから。
< 129 / 139 >

この作品をシェア

pagetop