「槙野だったら、何味にする?」
「なんでヤヨがお前に嫉妬するんだよ。」

「ヤヨちゃんは誰にでも嫉妬するんだよ。涼太のことなら。」

なんだろう。なんかちょっと気まずいや。ヤヨちゃんが涼太を好きだってことくらい、涼太もとっくに気づいてる。なのに涼太はずるい。気づいているくせに、気づいていないふりをする。そうしてどこかちょっと、僕を気遣う素振りをする。
涼太のことは大好きだけど、ヤヨちゃんの好きな人にそういうことをされると、自分がもっと哀れに思えてくる。
ただでさえライバルが親友なんて、こんなかなしいことって無いのに…。

「涼太はさ、どうなの。放課後だってヤヨちゃんのこと送って行ってあげてるじゃん。それってもう付き合ってる………いや、なんでもない。」

言いかけて、やめた。ヤヨちゃんが居ないところで僕が聞くのは間違ってる。それに「もう付き合ってるってことじゃん」なんて自分で口にしてしまったら、僕の気持ちはもっとダメになってしまう気がして怖かった。

涼太は左手で首の辺りを触りながら、困ったように視線を床に落としている。冷房の風か、涼太の髪の毛がかすかに揺れている。ストレートで綺麗な、少しブラウンがかった髪の毛。癖っ毛の僕よりずっと綺麗だ。

「なんでもないから。ごめん。今日も一緒に帰るの。」

涼太が僕を見た。無表情だ。

「別に、約束してるわけじゃないけど。ていうか去年まではお前だって一緒に帰ってたじゃん。なんで…」

涼太の言う通りだ。一年生の頃は三人で放課後一緒にファストフードに行ったりゲーセンやカラオケに行ったりしていた。でもヤヨちゃんの気持ちを知ってしまったら、そういう関係を続けるわけにはいかないって思った。
今はありもしない用事をあれこれ考えては一人教室に残ることが多くなった。

「僕は二人と違って忙しい人間なんだよ!ほら、涼太そろそろ戻りなよ。あんまり遅いとサボってると思われるよ。」

「お前に言われたくねぇよ。なんで休むんだよ。誰よりも張り切ってジャージ履いてるくせに。」

「体育の為に着てるわけじゃない。ラクなだけだから。」

僕は涼太から目を逸らした。涼太が僕を見ていることは分かる。
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