「槙野だったら、何味にする?」
「雫。好きだよ。」

「…うん。」

「中学の時からずっと。言えなくてごめん。そのせいで苦しめてごめん。」

「僕が言えなくさせてたんだよね。」

「ヤヨと出会って、ヤヨを好きになって変わっていくお前を見ていることが怖かった。雫が雫じゃなくなっていく気がした。でも、違うんだよな。おかしいのは、そうやって自分の中にあった常識だけで…、勝手に決めつけた普通って言葉でお前を閉じ込めていた、くだらない世間体の方だ。」

僕は、涼太を見ながら、首を横に振ることしか出来なかった。中学からもう六年間。涼太はずっと僕の隣に居て、変わっていく僕を一番近くで見続けて、自分の恋が終わってしまうかもしれない時も、ずっとずっと、僕を見守ってくれていたんだ。

「雫が自分を男だって言うんならそれでもいい。お前が男だろうが女だろうが関係ない。どれだけ考えても、俺はやっぱり雫が好きだ。消せないんだよ。俺の中からは、もう。」

「涼太、ありがとう。今までちゃんと話せなくてごめん。もしも僕が本当の僕になれたら、また僕とお話、してくれる?ちゃんと僕のこと。ちゃんと、知って欲しいよ。いつになるか分かんないけど。それから、ヤヨちゃんにもちゃんと話して欲しいな。やっぱり…、ヤヨちゃんに対してあまりにも誠意が無いと思うから。お願い。ヤヨちゃんの話、ちゃんと聞いてあげて欲しい。」

涼太は、小さくコクン、と頷いて、それから右手で僕の頬っぺたにそっと触れた。
ヤヨちゃんの手のひらとは違う温度がした。ヤヨちゃんが熱を出した四月。熱が出ていたからだろうか。今が、こんなに寒いからだろうか。涼太の指先は冷たくて、何でか分からないけれど、心臓のところがちゃぷん、と涙が溜まる感じがした。

「雫。」

「うん。」

「ごめん。好きだよ。」
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