「槙野だったら、何味にする?」
朝から降り始めた雪は、次第に強く降り始めて、窓の外はどんどん白くなっていった。それに呼応する様に僕の頭はズキズキと痛み始めて、三時間目が終わる頃には早退することにした。

涼太が、「ほら見ろ。」って、帰り支度をする僕に向かって言った。涼太は全然平気そうだった。何ならさっき起こったことも全然平気そうで、もうよく分からない。ますます頭が傷みそうだったから、考えることもやめた。

外に出ると今朝よりも本当に寒くて、マフラーに深く顔を埋めた。駅までがいつもより遠く感じる。ヤヨちゃんにトークを送信しようかとも思ったけれど、ヤヨちゃんだって風邪がしんどいかもしれないし、こんな寒さで手袋を外す勇気も無くてやめた。

マフラーから顔を上げて、空を見上げてみる。グレーの雲が一面に広がっている。お昼なのに少し暗く感じて不気味だった。

家に着く頃には薄く雪が積もり始めていて、僕の家の玄関先も白くなっている。まだ誰も踏んでいない雪をそっと踏んでみる。シャクっとした感触に、僕の靴の跡が残る。小さい足跡。涼太よりも、ヤヨちゃんよりも。

頭も痛いし寒いしで、早く家の中に入りたかったけれど、そこで力が抜けたように、しゃがみ込んでしまった。お尻をつけてしまわないように注意して。だけど、鞄もサブバッグも地面に投げ出した。少しずつ少しずつ、サブバッグに雪が染み込んでいく。

そっと雪を掴んでみた。手袋の上に乗せた雪が、少しずつ液体に変わっていく。
深いグレーの僕の手袋はどんどん黒さを増して、無地なのに大きくシミの模様を広げていく。
手袋越しだとあまり感じなかった雪の冷たさが、液体になるにつれてじんわりと僕の手のひらを冷たくしていく。
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