「槙野だったら、何味にする?」
「槙野だったら、何味にする?」

一年経った今でも、あの日のヤヨちゃんの可愛い声を僕は覚えている。
赤く染まるヤヨちゃんの頬っぺたも、涼太に向ける百点満点の笑顔も、全部覚えている。
覚えている、わけではないのかもしれない。
触れた雪が、フラッシュバックの様に、思い出させているのかもしれない。
そう思ったって、頭の中に巡るヤヨちゃんの声は、余りにも鮮明過ぎた。

雪の中で見た記憶は、屋上での涼太とのことが一番真新しくて、そして絶対に忘れてはいけないことなのに、あの冷たくてかなしいキスのことや、涼太が見せた涙。それを掻き消す様に、頭の中で何度も何度もヤヨちゃんの声が響いている。

これは、僕の中に在る罪悪感のせいかもしれない。それとも、ヤヨちゃんに拒絶された僕のキスへの慰めなのかもしれない。
それら全ての中に、やさしさなんて無い。
僕達は叶わない恋をして苦しんで傷つけ合っているだけだ。

こんなにも鮮明にヤヨちゃんの色んなことを忘れられないんだから、もしかしたら僕は、ずっとずっとヤヨちゃんのことが好きなままなのかもしれない。

届くことは無いと分かっていても、ヤヨちゃんを好きだと思うたびに、僕が僕のことを惨めに思っても、僕はきっとずっとヤヨちゃんのことを好きなまま。

一生のことなんて分からないのに、それだけは絶対だって、何故か僕は強く思った。

かき氷のシロップの味を、ヤヨちゃんは結局、何味にしたんだろう。もう一年も前のこと、ヤヨちゃんは忘れちゃったかな。
僕の基準は大抵、ヤヨちゃんだった。だからかき氷のこともそう。
ヤヨちゃんが食べたいけれど選ばなかった味にする。僕は絶対にそうするって思っていた。

「僕は、」

一年前と同じ様に呟いてみたけれど、結局僕は答えを出せていなくて、だからあの日だって、ヤヨちゃんの興味が涼太に移っていなかったとしても、僕は答えられていなかったんだと思う。
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