「槙野だったら、何味にする?」
自分が一体何なのか分からなくなる。
自分でも分からない。男だとか、女だとか。
ただヤヨちゃんが涼太を好きでい続ける限り、僕は僕のままではいられないと思っていた。
僕は僕自身を消してしまったとしても、ヤヨちゃんの「一番」が欲しかった。

「本当の僕」になれないままで、ヤヨちゃんに好きだって言えないままで、それでも想いは消えなくて、隠し続けることで僕はどんどん臆病になっていた。

でも、違ったんだ。ヤヨちゃんに好きだと伝えた時。そして涼太が僕を好きだって言ってくれた時。勝手に自分の気持ちを隠して、「本当の僕」を殺して、そうやって逃げてきたのは、自分自身だった。

雪はやむ気配がない。頭の上にも降り続けて、僕の体もどんどん冷たくなっていく。

ヤヨちゃんが涼太を待っていたあの教室で、あのまま窓に張り付いた水滴と一緒に流れて消えてしまいたかった「僕」を想った。
涼太は何を見ていたんだろう。消えないヤヨちゃんの想いを抱えながら。ヤヨちゃんは何を願っていたんだろう。ヤヨちゃんが、僕にも言えなかった、僕と涼太のことを隠して、僕に笑いかけてくれていた日々が、今更になってシクシクと傷み出す。

ヤヨちゃんと交わした会話はあまりにも膨大で、全てを思い出す事は不可能だけれど、あの日のヤヨちゃんの表情や声は、今もはっきりと思い出せる。

「槙野だったら何味にする?」

違うよ、ヤヨちゃん。
僕の基準はいつだってヤヨちゃんだから、僕は一人で答えが出せるはずが無いんだ。

だから、ねぇ。ヤヨちゃん。

「ヤヨちゃんだったら何味にする?」

一人、言葉にして真っ白な雪を眺め続けた。甘いシロップの様な涙が一粒、雪に落ちて消えた。

一年経っても僕はまだ、雪のかき氷の味を決められていない。

明日も明後日も、来年の冬もきっと。僕がヤヨちゃんを好きでいる限りずっと。僕が本当の自分を見つけるまでずっと。
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