「槙野だったら、何味にする?」
「あのさ、槙野。」

「なぁに。」

ヤヨちゃんが手を繋いだまま、こっちを見た。穏やかな顔をしていた。

「私、フラれたよ。」

「え?」

「りょうちゃんに。ちゃんと。フラれた。」

「ちゃんとって…。」

「りょうちゃん、今まで全然、私の大事な話聞いてくれなかった。いつもはぐらかして、わざと聞かないようにしてた。でもね、やっと。ちゃんと聞いてくれた。ちゃんとフラれて、私スッキリしたんだ。すごくすごく泣いちゃうかもって思ってたのに、それよりもスッキリしたことの方が強くて。そしたらね…。」

「うん。」

「私はやっぱり、りょうちゃんのことが好きだって思った。その気持ちは変わらないって思った。だからもう少しだけ頑張ってみようかなって思っちゃったんだ。」

決意した、強い女性の目をしていた。ヤヨちゃんは泣きそうな目もしていない。とても綺麗で、真っ直ぐで、ああ、やっぱりヤヨちゃんが好きだって、その目を見ていると、そう思った。

「そっか。ありがとう。教えてくれて。でもいつの間にそんな話してたの?全然知らなかった。」

そう言うとヤヨちゃんは急に悪戯っ子の目をして言った。

「だって言ってないもん。それに、もうこれ以上詳しいことは教えてあげなーい。」

「え!なんで。」

「隠し事する様な人には教えてあげないよ。」

ヤヨちゃんは見透かす様に見つめて、だけど微笑んでいる。本当は全部知っているって顔だ。

「りょうちゃんに聞いた。全部。槙野が私に話せないならそれでもいい。りょうちゃんがしたことや槙野が隠したい気持ちが悪いとも思わない。それがりょうちゃんの清算で、それで二人の間で区切りと言うか…納得してるなら。でもね、槙野が苦しいなら隠さないで。私は槙野の親友だよ。これからも。だから話したくなったら話してね。」

ヤヨちゃんは泣かないのに、自分が泣きそうになってわざとらしく鼻をすすった。ヤヨちゃんに話さないのは、涼太に言った様に誠意が無いと思う。もう少しだけヤヨちゃんが待っていてくれるなら、いつか必ず話をしようと思う。

「ごめんね。甘えちゃって。」

ヤヨちゃんは繋いでいた手を話して、それからふわっと抱きしめてくれた。

「三年間、槙野に甘えてきた私からの、槙野へのご褒美。」

甘い、ヤヨちゃんの髪の毛の匂いがした。栗色の、短くなった髪の毛もヤヨちゃんによく似合っている。泣きそうになるのを堪えながら、うんって小さく頷いた。
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