「槙野だったら、何味にする?」
「じゃ、行くわ。」

涼太が椅子から立ち上がって、ドアに手をかけようとした時。ちょうどドアが開いて、保健室の先生が入ってきた。

「わ!びっくりした、居たの。ごめんね、ちょっと出てて。」

もう少しで先生と涼太がぶつかりそうだった。

「いえ。絆創膏、貰いました。失礼します。」

涼太が先生に軽く頭を下げて保健室から出る。立ち去ろうとして、涼太は振り返って僕に言った。

「お前さ、その“僕”って言うの…いや、いい。」

涼太は不機嫌そうな目をして離れていく。

「何?青春?」

若い保健室の女教諭はからかうような、楽しそうな顔をしている。

「何でもないです。先生、外出するなら施錠したほうがいいんじゃないですか。危ないですよ。」

僕は八つ当たりのような口調になってしまっていることを自覚しながら言った。でも先生はまったく気にしていない。

「いいのよ。だってあなたが居たじゃない。」

「そんな決めつけられても…」

「2-B、火曜日。三時間目、晴れ。」

いたずらっ子のような目だ。大人なのに、茶目っ気たっぷりに。そろそろ本当に、仮病の頻度を考えた方が良さそうだ。

何も言わない僕に、先生は続けて言った。

「もうすぐ終わるわよ。どうするの。」

先生が言い終わる前に、僕はもうベッドに寝転び始めている。

「もう少し寝ます。貧血です。」

「はいはい。鉄分摂りなさいね。」

ブランケットを、今度は頭まですっぽり被って丸まった。僕は、僕だ。どうしたって僕のままなのに、涼太は認めない。僕は“僕”以外の何者にもなれない。涼太が認めなくても、ヤヨちゃんが好きになってくれなくても。
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