「槙野だったら、何味にする?」
屋上のドアは重たい。教室とは違う、押したり引いたりするタイプで、ギィ…っと軋むような重たい音を立てながら開いた。
雨はまだ降らなそうだ。湿気と気温の高さですごく蒸している。絶対に教室か食堂の方が快適なのに、好き好んで外で休憩するなんて、僕には気が知れない。

ドアを開けたとき、まばらに生徒が居るのが分かった。他の時期よりは、やっぱり少ない。春とか秋なら屋上に吹く風が気持ちよくて、僕もよく屋上を使っている。
まばらな生徒の中から、やっぱりヤヨちゃんは一瞬で涼太を見つけた。

「あ、りょうちゃん!」

そう言って僕の後ろに居たヤヨちゃんは、僕を追い越して涼太に駆け寄った。その瞬間、僕は透明人間になった気分だった。

涼太はほとんど決まって屋上で食べている。外が好きなのか、教室とか食堂の騒がしさより落ち着くのか、休み時間もわざわざ屋上に出ていることもある。

涼太が屋上に居ることなんてほぼ当たり前で、分かっていることなのに、ヤヨちゃんは偶然を装った。
やっぱり一人で食堂にでも行けば良かった。今からでも教室に戻ろうか?偶然なんか装わなくったって、涼太と食べたいってはっきり言ってくれれば、僕だって気くらい遣えるのに。

涼太に駆け寄ったヤヨちゃんが僕に向かって「おいで」って言うように手招きしている。

「槙野!はやくー。」

開けっ放しだった屋上のドアをゆっくり閉めて、同じくらいゆっくり二人のところへ歩いていく。ただでさえ嫉妬全開待ったなしって感じなのに、保健室でのこともあったせいか、余計に気まずい。なのに涼太は平気な顔をして「二時間もサボって寝てたくせに腹は減るんだな」とかからかってくる。
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