「槙野だったら、何味にする?」
「誰かさんの救急隊員、させられたからね。」

僕は涼太を見ないまま、ヤヨちゃんの隣に座った。涼太は地べたに直接座ってて、ヤヨちゃんはハンカチを敷いている。体操着のハーフパンツをスカートの下に履いたままみたいだけど、いくら体操着だからって、スカートからチラチラ見えるのはやっぱり心臓に悪い。あんまり見ないようにして、僕も地べたにそのまま座った。

「そうだ。りょうちゃん、傷口ちゃんと洗ったの?」

「んーん。平気。」

「ダメだよ。バイキン入っちゃうよ」

ヤヨちゃんが嫉妬している気配は無い。本当はしてるのかもしれないけれど、今は一緒にごはんを食べられるうれしさの方が勝ってるのかもしれない。

ヤヨちゃんはコロコロ話を変えながら、涼太に「やっぱり焼きそばパンだね」って言った。

「オレンジジュースもね。」

僕が言って、涼太が「真似すんなよ。」ってヤヨちゃんの髪の毛をくしゃくしゃってした。
僕はカツサンドを必要以上に口に詰め込んで黙って見ていた。

「真似じゃないもん。好きなんだもん。」

涼太のお決まりのランチ。焼きそばパンとオレンジジュース。中学生の頃も焼きそばパンをよく食べていた。ヤヨちゃんが涼太と話す口実が欲しくて焼きそばパンを買い始めたことも、本当はオレンジジュースがそんなに好きじゃないことも、僕は知っていた。僕と二人の時は、ヤヨちゃんは絶対にオレンジジュースを飲まない。本当に好きなのは、りんごの方だ。

「もーっ、髪の毛整えるの大変なんだからぁ!」

ヤヨちゃんはぐちゃぐちゃにされた髪の毛を手ぐしで整えながら怒っている。たぶん本当はあんまり怒っていない。
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