「槙野だったら、何味にする?」
「おーそーいー!」

「ごめん!ドリルやってたんだよ。」

「えっ、どうしたの。珍しい。」

ヤヨちゃんは心底びっくりした、というような声を出した。僕は笑いながら言った。

「自主的にじゃないよ。宿題だからさ…。」

「だから珍しいんじゃん。絶対やってないと思ってた。」

「全然やってないよ。」

電話口のヤヨちゃんの声は、直接話す時とはちょっと違う声になる。どっちの声も可愛いけれど、通話は滅多にしないから新鮮だ。
夏休みに入ってから何回かは遊びに行っているけれど、やっぱり学校の時よりは会う回数は少ない。だから今僕はかなり舞い上がっていた。

「どうしたの?通話、珍しいね。」

「そーそー!槙野、今日怖いテレビやるよ。」

「怖いテレビ?」

トークアプリの画面をスワイプさせて、スマホのデスクトップに戻る。次はテレビ番組表のアプリを起動させた。「怖いテレビ」だからゴールデンタイム辺りだろう。

「ああ、これ、20時からのやつ?」

「そー!あのね、私、怖いテレビ好きなの。」

「うん。知ってるよ。」

「でもね、見たあとすっごく後悔しちゃう。自分の部屋なのに、そうじゃないみたいに感じちゃって。お風呂もトイレも行けなくなっちゃう。」

「うん。」

去年の夏休み、ヤヨちゃんが一人で怖いテレビを見て、思い出すから電気を消せない、目を閉じるのも怖いと半べそかきながら通話をかけてきたことを思い出しながら、僕は気づかれないように笑った。
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