「槙野だったら、何味にする?」
「そう言えばそうだったね。でも、お母さん達、勝手に泊まったりしたらやっぱ怒るかなぁ。」

「それは大丈夫。連絡はしておくよ。それにうちの親、ヤヨちゃんのこと気に入ってるし。」

実はヤヨちゃんが僕の家に泊まりに来るのは初めてじゃない。二人っきりは初めてだけど…。高一の時、文化祭の準備が遅れていて、僕の家で泊まりで作業をしたことがある。小さい部屋に五人でスペースを譲り合いながら作業をして、最終的に僕の部屋、一階の和室の部屋で男女で別れて寝た。

ヤヨちゃんは作業だけでもけっこう大変だったのに、母さんが作ってくれたカレーを運んだり、お皿を洗うのを手伝ってくれたりと色んなことをしてくれた。母さんはヤヨちゃんをすごく気に入って、からかうように「あんな娘がうちにも欲しかったわね」って僕に言った。

まぁ、でも、「二人」で泊まるってことは、一応言わないでおこう。嘘も方便だ。

「だからさ、それは大丈夫だよ。ヤヨちゃんの親は大丈夫?」

「全然平気。うちのほうこそ放任主義みたいなもんだからさ。でも槙野のとこに泊まるってことはちゃんと言うよ。うちの親も、槙野のこと気に入ってる。」

「そっか。ありがとう。」

好きな子の親に気に入ってもらえるのはうれしい。僕は表情がほころぶのが自分でも分かった。
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