「槙野だったら、何味にする?」
十八時。自分の家なのに他人の家に居るみたいにソワソワして落ち着かない。無駄にリビングを行ったり来たりしている。
あれからすごく頑張って掃除をした。玄関、リビング、自分の部屋、トイレ、お風呂。お風呂はたぶん、いや絶対に使わないけれど。
母さんは毎日こうやって掃除してくれてるんだ。これからは休みの日とかにお手伝いしようと思った。…今は、思っている。

ピンポーン。家の中にインターホンのチャイムが鳴る。かくれんぼで見つかった時みたいにドキっとした。玄関のドア。魚眼レンズを覗くと、普段のお出かけの時よりはちょっと大きめのトートバッグと、紙袋を持って立っている。

鍵を開けて、迎え入れた。
ヤヨちゃんがにこって笑って僕を見た。
黒に小さいお花模様のワンピース。色白のヤヨちゃんによく似合っている。髪の毛は一つにまとめて編み込んでいる。フィッシュボーンっていうんだって、この前ヤヨちゃんが教えてくれた。
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