「槙野だったら、何味にする?」
しばらくして、お風呂場の方からヤヨちゃんが呼んでいる声がした。

リビングのドアをちょっとだけ開けて「ヤヨちゃん?どうしたの?」と返した。

「槙野、ごめん。家で入ってきたからドライヤー忘れちゃって。借りてもいいかなぁ。」

「うん、いいよー。」

「ありがとう。」

もう一度ドアを閉めて、ソファに座った。すごく楽しいなって思った。もしもヤヨちゃんと付き合ったり、もしももしも、同棲なんかしちゃったりしたら、毎日こんな風に過ごせるのかな。そんな毎日は幸せすぎて、僕はどうにかなっちゃいそうだ。こんな気持ち悪い妄想、ヤヨちゃんには絶対言えない。

リビングのドアが開いて、ヤヨちゃんが入ってきた。シャワーを浴びたから髪の毛はほどかれていて、肩の下くらいまで伸びている。ヤヨちゃんは癖っ毛を気にしているけれど、ストレートよりも少しだけふわふわしていて、栗色で、外国のお人形さんみたいで可愛い。僕の家に来るまでの間だけ、たったその為だけにフィッシュボーンにしてきたんだと改めて思ったら、その可愛さに心臓の辺りがキュっとなる。

お花のワンピースから着替えて、ピンクでふわふわのルームウェア姿になっている。女子の間で流行ってる、ちょっといいお値段のやつ。ただのTシャツにハーフパンツの僕は、部屋着にそんな高い物を着るのかと驚いた記憶がある。でも当然、ヤヨちゃんにはよく似合っている。この世にこのブランドがあってありがとうとさえ思った。
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