「槙野だったら、何味にする?」
ランチパックの中にはカツサンドが四等分。一切れずつお皿に取り分ける。キャベツが挟んであって、ソースと混ざって美味しそう。色味の為なのか、パックにはプチトマトも四粒入っている。

二人で手を合わせて、いただきますをした。小学校の給食の時間を思い出す。

パンがトーストになっていて、サクッとして美味しい。キャベツもシャキシャキだ。

「ヤヨちゃん!すっごく美味しいよ!」

良かった、と言いながらヤヨちゃんが続ける。

「んー、でも白状しちゃおっかな。私、料理は得意じゃないの。だからこのカツ、スーパーのお惣菜。手作りじゃないの。」

「そうなんだ。でもキャベツの千切り上手だね。」

「槙野、スーパーにはね、千切りしたキャベツの袋も売ってるんだよ。なんでも揃ってるんだから。」

ヤヨちゃんが次々と白状してくる。それでも僕は全然ガッカリしない。

「へぇ。凄いんだねぇ、スーパーって。でもパンをトーストして味付けしたのはヤヨちゃんでしょ。じゃあやっぱりヤヨちゃんの手作りだよ。」

僕はとにかく嬉しかったんだ。ヤヨちゃんが僕にカツサンドを食べさせたくて一生懸命やってくれたことは、どれも嘘じゃない。

どんどん頬張る僕を見て、ヤヨちゃんはやっと笑ってくれた。

「槙野、トマトもちゃんと食べて。」

「ヤヨちゃんにあげる。」

トマトは嫌いだ。絶対に食べられない。

「だーめ。はい。」

プチトマトのヘタのところを持って、僕の方に突き出してくる。ダメだ。ヤヨちゃんにそうされてしまうと、催眠術にかかったみたいに言うことを聞いてしまうんだ。

ヤヨちゃんが突き出しているプチトマトを受け取って、口に入れた。

「ね。おいしいでしょ。」

「まずいよ。」

こればっかりは、魔法にはかからない。
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