「槙野だったら、何味にする?」
ヤヨちゃんが来る前に、一階の和室から必死で持って上がったお客様用の敷布団を敷いて、枕とブランケットもセットした。

「ヤヨちゃんが嫌じゃなければ僕のベッド使ってね。僕がこっちに寝るから。」

そう言って布団に入ろうとする僕にヤヨちゃんが言った。

「そんなのダメだよ。」

僕は動きを止めて、もう一度立ち上がる。

「あ、ごめん。そっかそうだよね。僕、一階で寝ようか?」

「そうじゃなくて。槙野がベッドで寝て。嫌とかじゃなくて、私が使っちゃうのは悪いよ。」

一緒に寝るとか無理だと思われたのかと思ってちょっと落ち込んでいた僕は、ベッドの方かぁ…と安心した。安心するのもおかなしな話だけど。そもそもこの状況が、もうずっとおかしいのに。

「それはもっとダメ。ヤヨちゃんがベッドで寝ないなら今から帰すよ。」

僕のベッドだから使ってほしいわけじゃなくて、女の子を下に寝かせるなんてできない。

「安心して。シーツも枕カバーも新品だよ。」

母さんがそろそろ替えなさいって新しく買ってきてくれていたやつをようやく引っ張り出してきて取り替えた。

「ごめんね。新品ばっかり。」

ヤヨちゃんはそう言って、やっとベッドに寝てくれる気になったらしい。

「明日の寝起きの顔が汚くても笑わないでね。」

ヤヨちゃんはいつでも可愛いし綺麗だよって言いたかったけれど、もちろん言えない。僕のことは笑ってもいいよって返して目を閉じた。
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