「槙野だったら、何味にする?」
ヤヨちゃんからの返事はない。
仰向けから左側の横を向く体勢になって、ヤヨちゃんを見た。僕より少し高い位置にヤヨちゃんの顔がある。さっきまで普通に喋っていたのに、ヤヨちゃんはもう眠っている。自分の口角が上がるのが分かる。本当に赤ちゃんみたいだなって思った。

時計の針の音とヤヨちゃんの静かな寝息。この時間がずっと続けばいいのに。せめて夏休みが終わるまで。それまでだけでも。
けれど、そうはならない。僕がどれだけ望んでも、ヤヨちゃんが本当に一番に会いたいのは、いつだって涼太だ。それでもいい。必要な時に僕を思い出して。ヤヨちゃんの声で「槙野」って呼んでくれたら、僕はすぐにヤヨちゃんの為だけに駆けつける。二番目でも何番目だっていいから、僕を忘れないで。

そっと目を閉じる。二人だけの夜。隣にヤヨちゃんが居る。その時間も、もうおしまい。夢じゃない現実は何度まばたきをしても覚めなくて、終わりがくる夢よりも怖い。
ヤヨちゃんの恋が叶わなければ、僕も夢が見れるのかな。ヤヨちゃんは泣いたままで。僕だけがとびっきりの夢を。
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