「槙野だったら、何味にする?」
「よし。」

国語のドリルを持って立ち上がる。職員室で待っている国語教諭に渡せば今日のノルマは完了。もしかしたらこの補修のせいで先生も帰れないのかもと思うと申し訳なくなってくる。

「職員室行ってくるね。」

ヤヨちゃんに言った。ヤヨちゃんが返事をする前に教室のドアの開く音がして、涼太が入ってきた。

「涼太、帰ってなかったんだ。」

「お前を待ってたんだろ。」

「え?」

なんで涼太が僕を待っているんだろう。約束なんかしていないのに。

「さっきまでりょうちゃんと屋上で喋ってたの。槙野も一緒に帰ろうって。で、今ドリル終わったよってトーク送っといた。」

ヤヨちゃんはにこにこしながらトークアプリの画面を僕に見せてくる。教室に戻ってくる前に二人で屋上に居たのか。屋上は二人っきりだったのかな。どんな話をしたんだろう。待っていてくれたことがうれしいかどうか、自分でももう分からない。嫉妬心が顔を出す。恋って自分を嫌いになることばっかりだ。

「ごめん。先生と話さなきゃいけないこともあって。待っててくれたのに時間無駄にさせちゃって悪いけど、先に帰ってて。」

嫌な自分。素直になれない自分。三人で帰ったって、僕は幸せそうなヤヨちゃんを眺めて落ち込むことしかできない。

二人の返事を待たないで、僕は教室から出た。ヤヨちゃんが「まきのー?」って不思議そうに僕を呼んでいる。僕は振り返らなかった。初めて、ヤヨちゃんの声に振り返らなかった。

僕は、馬鹿だ。涼太の言う通り。
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