「槙野だったら、何味にする?」
「あ!りょうちゃーん!」

ガタッと椅子を鳴らしてヤヨちゃんが立ち上がった。目線の先には涼太が教室に入ってきたところだ。僕を見つけてくれた時とどっちの方が早かったのかななんて不貞腐れてしまう。

今年も涼太と同じクラスでうれしい。本当だ。涼太と僕は親友だって胸を張って言える。

ヤヨちゃん。ヤヨちゃんはなんで涼太が好きなの。本当に涼太じゃなきゃダメ?
その相手が涼太じゃなければ嫉妬心も少しはマシだったのかな。

ヤヨちゃんの気持ちが僕には絶対に向かないことは分かってる。どんなに頑張ったって、僕は結局「いい友達」止まりだ。

二人が僕のほうに近づいてきながら、話してる。
「来るの遅かったね」「ちょっと寝坊した」「どうせ春休みずっと夜更かししてたんでしょ」なんて、楽しそうに。

「またジャージ。」

教室の床を見ながら、なるべくヤヨちゃんのうれしそうな表情を見ないようにしていたから、涼太が僕に話しかけてきたことに気づいていなかった。

「まきのー?」

「………えっ?」

目の前でヤヨちゃんがひらひらと手を振っている。

「もう槙野、どうしたの。ボーッとして。」

「え?ううん。なんでも。何?」

きっと僕はちょっと困ったような顔をしていたんだと思う。涼太も苦笑するような顔をして、「またジャージ?新学期くらいちゃんと…」

「これが正装なの。」

涼太を遮って早口で言う。いいじゃんか別に。ジャージ履いてたって。これがラクだし、これが僕なんだ。

「変なの。」

ヤヨちゃんがクスクス笑う。
涼太は「はいはい、そうですかー。」なんて言って、自分の席に向かった。出席番号が早い涼太の席は、廊下側。前から三番目。僕たちからは遠い。

ヤヨちゃんの目の前は僕なのに、きっと僕のことなんて見てない。僕がヤヨちゃんより前で良かった。後ろだったらさ、涼太を見つめるヤヨちゃんを、僕は見つめなきゃいけなかったから。
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