「槙野だったら、何味にする?」
「あーあ。やりたかったなぁ。マネージャー。」

雪のかき氷を何味にするかっていう話題は、ヤヨちゃんの中にはもう無いみたいだった。僕はそのことに対して、悔しいとは少し思ったけれど、それは涼太に対しての様な気もするし、かなしいとは思わなかった。ヤヨちゃんが喋りたいことが、今は違うんだから仕方がない。
普段からコロコロと話題が変わっていくヤヨちゃんを、嫌だなと思った事は一度も無い。ヤヨちゃんの声を聴いているだけで僕は満たされるから。
例えそれが涼太の話であったとしても、僕は単純にヤヨちゃんの声を聴き続けた。
どんな音楽よりも、その音は素晴らしかった。

「マネージャーって、サッカー部の?」

僕はようやくヤヨちゃんの顔を見ながら訊いた。
ヤヨちゃんはまだ運動場の方を見ていた。
窓は開けっ放しで、ヤヨちゃんの栗色でふわふわの髪の毛が後ろに流されている。冬になってからヤヨちゃんはあんまり髪の毛を結わなくなった。首が寒いからだって言ってた。

「うん。りょうちゃんが高校でもサッカーやってたら、マネージャーやりたかったなって。」

「うーん。でもきっとすごく大変だよ。」

ヤヨちゃんは僕の方を見て、唇を尖らせた。
頬っぺたはさっきよりも赤かった。

「私がすぐめげると思ってるんでしょ。大変でも…頑張れるもん。」

モゴモゴ言ったヤヨちゃんの口調は、後半の方はもう音が消えかかっていた。僕も、僕がいるからって理由でヤヨちゃんに選ばれてみたかった。ヤヨちゃんの心をコロコロ動かせる涼太が羨ましかった。
僕にはきっと、そんな風にヤヨちゃんの心を動かすことは出来ないって、自分で分かってしまうから嫌だった。
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