「槙野だったら、何味にする?」
「小さいな。」

ポンっと頭の上に置かれた涼太の右手を振り払う。

「うっさいな。」

涼太の顔は見なかった。見上げる形になるのが癪だった。

「こんな時間までかき氷の味、考えてたのか?」

「え?」

「ヤヨが言ってた。槙野はかき氷の味を考えてるって。」

ヤヨちゃんにとっては他愛もない話。僕にとっては二人だけの秘密みたいな感じがしてうれしかった。でもヤヨちゃんはそうじゃない。

「ヤヨちゃんが何にするって訊くから。」

「かき氷でも食べんの?こんな…」

寒いのに、って言いたそうに、涼太は辺りを見渡した。その中でかき氷を食べていることを想像して、僕もちょっと身震いした。

「違うよ。もし雪に味をつけるなら、何味にするって。」

「お前はどうせいちごだろ。」

「なんで。」

涼太はきっぱりと言った。僕はなんにも言っていないのに。

「一昨年も去年の花火大会も、槙野はそうだった。散々迷って結局いちごにする。」

そんなこと、どうして憶えているんだろう。僕はあんまり憶えていない。去年はヤヨちゃんと涼太と花火大会に行って、ヤヨちゃんの、生成っぽい生地に金魚が描かれた浴衣姿が、息を飲むほど可愛かったってことくらいしか。
ましてや一昨年のことなんて、かき氷を食べたかどうかすら憶えていない。

「涼太は、何味にするの。」

「ブルーハワイ。」

またきっぱりと即答した涼太に、僕もまた同じ返事をする。

「なんで。」

「槙野がブルーハワイといちごで悩むから。」

涼太はまっすぐに僕を見て言った。僕はちょっと気まずくて、涼太から目を逸らした。

「ヤヨちゃんの家が近くて良かったね。毎日送って行くの大変でしょ。」

僕は早口で言った。ちょっと嫌味みたいな言い方を、ヤヨちゃんにも涼太にもしてしまった気がして後悔した。

「ヤヨは守られる対象だよ。」

「うん?」

想像していなかった僕は、涼太の答えが少し不思議だった。

「ヤヨは、たぶん誰から見ても守ってもらう側の人間だ。だから別に、送っていくことくらいどうってことない。でも…」

「でも?」

「槙野。お前も同じだ。」

涼太はまた僕の頭を軽くポンっとして、マフラーに顔を埋めて歩き出した。

頭の上に僅かに涼太の手のひらの感触が残っている。僕が守られる対象?どういう意味だ?
僕は涼太みたいに強くない。身長も足も小さい。ヤヨちゃんには完全に「女友達」として見られている。だから、だからやめとけって?

「結局何しに来たんだよ。」
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