「槙野だったら、何味にする?」
誰かを好きになって、大切な人を傷つける。恋と友情は成立しないってことが本当なら、僕はずっと、ひとりぼっちの方がマシだ。
ヤヨちゃんとこのまま、ずっとこの先もこのまま、僕は「いい友達」止まりで、恋愛対象にもなれなくて、ただヤヨちゃんの恋を見届ける。
本当に苦しいけれど、涼太との関係が壊れていくことも怖い。

何も失くさないまま、大切な物だけを手に入れ続ける。そんなことは有り得ない。それを信じていられるほどに僕は子供ではいられないし、大切な物の為に何かを失くしていくことを、諦められるほど大人にもなれなかった。

一時間目の始業を告げるチャイムはとっくに鳴り終わっていた。また減点だ。
冬休み直前の美術の授業は絵画。テーマは「自由」。
描きたい人や物を自由に描く。水彩画でもアクリル絵の具でも、色が無くったっていい。
僕は頭の中の想像だけで描き続けていた、画用紙の上にもまだ咲いていない桜の木のことを思った。
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