「槙野だったら、何味にする?」
二日間、僕は熱を出した。ヤヨちゃんの風邪を貰ったのか、季節の変わり目のせいなのかは分からない。そんなことも考えられなかったし、ヤヨちゃんに貰った熱だろうが何だろうが、どうでもいいくらいには熱がしんどかった。

僕の手に感じたヤヨちゃんの熱も、あの日の最低で汚い僕もぜんぶ一緒に燃やして欲しかった。これでリセット出来るなら体調不良くらい安い。

僕の母さんは専業主婦だから、おでこの上のタオルを変えたりおかゆを作ってくれたり、新しいパジャマの用意とか、まるで僕が赤ちゃんに戻ったみたいに世話を焼いてくれた。もし僕の家もヤヨちゃんの親みたいに共働きで、どうしても家を空けなきゃいけなかったら、僕もヤヨちゃんに連絡してみようかなとか魔がさしていたかもしれないから助かった。
そんなこと考える余裕も無かったけれど。


四月八日。
僕はベッドの中で三年生になった。
熱は三日目になると引いていたけれど、大事を取って始業式も欠席した。
朝、涼太に「明日は行く。」とトークを送信して、その返事を昼過ぎに受け取った。

遠目からクラス替えの模造紙を写した写真付き。ヤヨちゃんが両手でピースをして、その模造紙の前に立っている。
拡大して模造紙に並ぶ名前を順番に見た。涼太、僕、ヤヨちゃんの名前。

三年生になっても僕達は同じクラス。このクラス替えで僕は一年間の運を使い果たして、席替えは今年もどうせ最悪なんだろう。今日休んでしまっているから、ヤヨちゃんとの前後の席も一日分消えてしまった。

トークアプリを閉じる。ヤヨちゃんの顔は、写真でも、まだ見れなかった。
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