「槙野だったら、何味にする?」
僕の横で、ヤヨちゃんが見慣れた絵の具道具を広げ始めた。

「何それ。」

僕はまたペンキを塗っていた手を止めて、ヤヨちゃんを見た。こんなに何回も手を止めてしまったらムラができてしまいそうだけど、まあそれも味があっていい…と思う。元々そんなに綺麗には塗れていないし…。不器用だから許されたい。

「私の絵の具道具。」

「うん。いつの間に?」

ヤヨちゃんは美術の授業で使っている、僕も持っている絵の具道具からパレットとアクリル絵の具と筆を取り出した。筆を洗う小さいバケツもしっかり用意している。

「今日集合する時に持ってきてたんだよ。ずっとそこに置いてたけど。気づいてなかった?」

ヤヨちゃんはクスクス笑っている。全然気づいてなかった。今日は放課後に職員室に用事があったからヤヨちゃんとは別々に集合した。集合してもヤヨちゃんのことばっかり気にしていたから気づいていなかったんだ。

「そっか。なんで持ってきたの。」

「名前のところ、なんか変わった色作れないかなぁって。」

ヤヨちゃんは言いながらパレットにいくつもの色を出して、筆ですくっては豪快に混ぜていく。ベニヤ板の上の、高校の名前を奇抜な色で塗りたいんだと言う。
今年の文化祭のテーマは「個性」だ。人それぞれいろんな色があって特徴がある。一人一人の個性を尊重しようっていうテーマらしい。
このカラフルなベニヤ板はゲートの目玉になる。お店の大事な看板みたいな物だ。しっかり客寄せが出来そうなほど、目がチカチカするくらい、色とりどりに完成しようとしている。
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