「槙野だったら、何味にする?」
十月に入る少し前から、十七時を回る頃には日が沈み出した。十一月になってから、十八時にもなると、夕方というよりは夜みたいに暗くなる。

文化祭の準備作業をしていた生徒達のほとんどが片付けを済ませ、下校しようとしている。見回りの先生も職員室から出てきて、残っている生徒に声をかけ始めた。

校門前の電灯や、校舎の窓から漏れる光だけでは、ベニヤ板の上の色もあまり違いが分からない。黒や青や紺色なんかは、もうほとんど同じ色だ。

僕達のグループも片付けに入った。そう言えば、さっきジュース買いに行ってくるねって言ってたヤヨちゃんがまだ戻ってこない。涼太も一緒に行ったはずだ。僕はヤヨちゃんが描いた熊の絵に茶色を塗っているところで、曲線が多くて集中していたからついて行かなかった。

「槙野、熊が茶色なんて個性無いよ。」って怒られたけれど、もう今更消せないからしょうがない。

片付けが終わると、この大きなベニヤ板は一旦、体育館の倉庫にしまう。体育で使う用具をしまっているのとは違う、あまり使ってない方の、物置きみたいな倉庫だ。体育館は今僕達が居る運動場とは反対側だ。

「じゃあこれ運んだら終わりだね。」

同級生の女子が言った。他の同級生や後輩が返事をして、板を持ち上げようとする。

「あ、槙野ちゃんはいいよ。新聞紙片付けたらもう帰っていいよ。」

同級生の女子が言った。この女子は僕のことを「槙野ちゃん」って呼ぶ。男女問わずそう呼んでいることが多くて、敏腕プロデューサーみたいだなとちょっと笑ってしまう。生徒会長をしている同級生だ。将来本当にそういう仕事をしているかもしれないとか想像してしまう。

「分かった。ありがとう。」

僕は言いながら、ベニヤ板が汚れないように敷いていた新聞紙を拾い始めた。

「そう言えば、やよいは?」

「ジュース買いに行ってくるって。もうけっこう経つんだけどな。」

この子はヤヨちゃんと中学から一緒だった。ヤヨちゃんのことを「やよい」って呼ぶ、数少ない友達だ。

「涼太くんも?」

「うん。」

「イチャつくのは片付けが終わってからにしろって言っといて。」

プロデューサーは僕にじゃあね、と手を振りながら呆れたような顔で他の同級生や後輩達とベニヤ板を運んでいった。
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