「槙野だったら、何味にする?」
「ヤヨ、見つかった?」

涼太の声だ。ヤヨちゃんが探し物をしているらしい。

「ううん。やっぱり美術室かなぁ。装飾に使いたかったのに。」

「また明日にすれば。みんなだってもう片付けしてるだろ。もし美術室に無かったら、俺の使えよ。」

ヤヨちゃんが絵の具道具を探しているんだと分かった。その絵の具道具は今、僕が持っている。
ヤヨちゃんは嘘をついている。忘れたことを忘れているんだろうなって思っていたけれど、わざと忘れたんだ。
涼太はヤヨちゃんがアクリル絵の具を使っていたことに気づいていないのかな。作業の途中でバルーンアートに使う風船が足りなくなった。新しく買い足さなきゃいけないからと、生徒会室に経費を切ってもらう為に、涼太とあの生徒会長の女子は運動場を離れた。
それまではヤヨちゃんはまだペンキを使っていたし、涼太はそのまま買い出しに行って、戻ってきた時には、もう絵の具道具を片付けていた。
だから、絵の具道具を持っていたことを知らないのかもしれない。

ジュースを涼太と買いに行くことになったのは偶然だ。僕が熊の曲線に一生懸命になっていて、ついて行かなかったから。
だからヤヨちゃんはどうしてもココアが飲みたいって言って、教室の前まで来た。それから出来るだけ長く涼太と二人で居たくて、こんな嘘をついているんだと思う。
こんな推理を一人でしている自分が、惨めで情けなかった。
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