「槙野だったら、何味にする?」
「槙野が心配してる。戻ろう。」

「りょうちゃん。」

ヤヨちゃんは、涼太の「槙野が心配しているから戻ろう」って言葉には返事をしなかった。

「りょうちゃん。文化祭が終わったらもう冬休みもすぐだね。そしたらあっという間に三学期になって、私達、卒業しちゃうんだね。」

ヤヨちゃんの声を聞きながら、僕はそっと立ち上がる。このまま立ち去ろうと思っていた。心臓の辺りが苦しい。
ギリギリの場所から中を覗いたら、ヤヨちゃんと涼太は向かい合っていて、ヤヨちゃんの手の中には緑色の四角い紙パックが握られている。ココアだ。両手で包み込んでいる。きっともう、ぬるくなっているだろう。

「あのね、りょうちゃん。」

え、と思った。
告白?ヤヨちゃんの声のトーンと少し震えていることが分かる口調から、ヤヨちゃんが告白しようとしているんだって、僕は気がついた。

苦しかった心臓が、今度は破裂してしまいそうだ。ヤヨちゃんの方がもっと死にそうだろうけれど。

「りょうちゃん。私、」

「ヤヨ、槙野が待ってる。行こう。」

ビクッとして、僕は持っていた新聞紙とヤヨちゃんの絵の具道具を落としてしまった。
バサバサッ、ガタンっと音が鳴る。ヤヨちゃんと涼太がサッとこっちを見る。
目が合ってしまった。

「槙野?」

ヤヨちゃんが言った。

「あーっ!二人ともやっと見つけた!教室に居るんだったらトーク送っといてよ。探したじゃん。」

わざとらしく、必要以上に大きい声で僕は言った。二人とも、笑ってくれなかった。
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