Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
遭逢


その瞳に捉えられた瞬間、わたしはバカみたいに立ち尽くしてしまった。


コンビニからマンションへの帰り道。

片手にビニール袋をぶら下げたまま、数メートルほど先にある公園前のポールに腰掛けている彼と、見つめ合う形になる。



——きれい……。



呆然と、一番にそう思った。


怖いくらいに整った顔を、センターパートの艶のある黒髪が、引き立たせている。


すらりとした身に纏うのは、黒一色。

タートルネックにレザージャケット。

肌の露出が少なくて、……なんだかそれが逆に、色っぽい。


あたりはすっかり暗いのに、近くの街灯がスポットライトのように彼を照らし出していて。

瞬きを忘れるほど、惹き付けられて仕方がなかった。



「――おい」



突然聞こえたのは、抑揚のない呼びかけ。

それが目の前の彼から発せられたものだと、少し遅れて気がついた。


コツ、と革靴を鳴らして、こちらに歩み寄ってくる。

その短い間の所作でさえ美しくて、圧倒される。

声を出せずに固まっていると、彼はすぐそばで立ち止まり、



「そこの、おニーサン」



わたしの背後を見据えながら、再び口を開いた。

その場の空気が、ピリ、と張り詰めたような気がした。

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