Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
傷跡
「昨日の病院、どうだった?」
お昼休みの、カフェテリア。
向かい合って座っていたクラスメイトの有沙が、空っぽのお弁当箱を片しながら思い出したように訊いてきた。
「まだ、痛む?」
「ううん。だいぶ良くなってきて、……あとは痣が消えていくのを待つだけって感じ。通院も、もう2回くらいで済みそうだって」
「ほんと? よかった」
ホッとしたような笑みを返してくれた有沙に、わたしも口元を綻ばせる。
できるだけ自然に見えるように気をつけた。
……右肩の、背中側。
制服の下で紫色に腫れ上がっているであろう、わたしの肌。
そこにはまだ、少しの痛みと違和感が残ってる。
昨日の帰りが遅くなったのは、学校のあとに整骨院に寄っていたせいだった。
「でもさ。普段見えないところでよかったよね」
——きっと、有沙は本気でわたしに寄り添って、その言葉をかけてくれたのだと思う。
だけどわたしの心にはずしりと重たくて、
「……うん」
慎重に作っていた笑顔が、若干ぎこちなくなってしまった。
有沙がはっとする。
「あ、……ごめんっ。言葉間違えた。怪我しちゃってるのに、いいわけないよね。わたしが言いたかったのは、不幸中の幸いだっていうニュアンスで……」