Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「な、なんで? ……あれ? ここ、どこだっけ……わたし、なにして……」
どっと押し寄せる疑問に、軽くパニックになりながら言葉を並べる。
耳に入る自分の声はひどく掠れていたし、寝起きのせいか呂律も上手く回っていない。
「——大丈夫だから、落ち着いて」
冷静になだめられて、彷徨わせていた目が自然と本条くんへと吸い寄せられる。
近くで見る彼は遠くで見るよりもさらに端正で、圧倒されたわたしは、小刻みに頷いた。
「ここは、俺の家」
「……へ?」
「でも安心して。ゲストルームだから」
……げすとるーむ……。
わたしの日常では、あまり聞くことのない単語。
お家にそんなものがあるんだ。
すごい。
そして当然のように、わたしの部屋の何倍も広い……。
本条くんの家ってことは、……理事長のご自宅ってことだもんね……。
ついつい感心してしまって、——そうじゃない、と慌てて思考を軌道修正した。
ひやりと首元に低めの体温を感じて、思わず体を震わせる。
本条くんの手だ。
「熱はもう引いたかな。よかった」
「……」
「水、ここにあるから飲んで。体起こせる?」
言われた通りに、身を起こそうと力を入れる。
手をベッドについたところで、本条くんがわたしの身体に手を回して支えてくれた。