Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「あいつらがうちの生徒に手を出すなんて、滅多にないんだけど。今回はちょっとした事情があったみたいで」
本条くんが語る内容を、わたしは黙って聞こうとしたのだけれど。
「……平石さん、なぎ高に通ってる知り合いがいるよね」
「えっ」
問いかけというよりも、どちらかというと断定に近いような。
そんな本条くんの言葉に、わたしは短く声をこぼした。
「それってもしかして……イブキくんの、こと?」
「そう。合ってる」
「あの、でも……。最近はもう全然……」
わたしは、中学に上がると同時に疎遠になってしまった幼なじみのことを思い浮かべた。
幼なじみといっても、小さい頃からずっと一緒、というような関係じゃなく。
わたしが幼稚園生や小学生のころに、よく遊んでくれていた近所の男の子、というだけ。
学校も違ったし、イブキくんという名前と、同い年だということくらいしか知らない。
実は苗字だって教えてもらってないくらいだ。
だから、わたしが聡学に通うことになって、ひとり暮らしを始めてからしばらくのころ。
隣町の繁華街で偶然イブキくんを見かけたときに、身につけている制服を見て、彼がなぎ高に通っていることを知ったんだ。
正直、……なぎ高の生徒なんだって思ったら、怖くて話しかけることもできなかったし、前みたいに接することもできないと思った。
面影は残ってるな、なんてひとりでこっそりと懐かしんで、見て見ぬふり。
それくらい、わたしにとってなぎ高の印象はあまりいいものじゃない。