Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



「だけど今回、平石さんに近づいたやつらは、イブキと平石さんの関係を嗅ぎつけたみたいなんだ。そのせいでルールが破られた。なぎ高と関わりのある聡学の生徒ってことで、例外に当てはまると主張する気だったらしい」

「……」



本条くんの言葉をひとつひとつ、わたしは必死で噛み砕いた。

わたしに近づいた……ルールが破られた、って……。

その言い方じゃ、まるで……。



「……えと。もしかして、……」



ひとつの結論に辿り着いて、わたしは自分の指先をぎゅっと握った。



「……絡まれた生徒って、わたしのこと、なの……?」



恐る恐る尋ねると、本条くんはコクリと頷いた。

その表情に、少しだけ躊躇うような色が浮かぶ。



「記憶が曖昧なのは、薬の影響かな」



本条くんがひとりごとみたく、低く呟いた。

その内容に、ズクン、と心臓が嫌な音を立てる。





『平石澪奈ちゃん?』



耳の奥で蘇る声。

急激に、体温が奪われていく。



『ちょっと話があんだけど、ついてきてくれる?』



頭の中の靄が、ゆっくりと晴れていって。



『手荒な真似したくないからさ。大人しくしろよ』



――そうだ。



「……思い、出した……」



わたし……帰り道になぎ高の生徒に呼び止められて。

逃げられなくて……。




< 36 / 92 >

この作品をシェア

pagetop