Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「だけど今回、平石さんに近づいたやつらは、イブキと平石さんの関係を嗅ぎつけたみたいなんだ。そのせいでルールが破られた。なぎ高と関わりのある聡学の生徒ってことで、例外に当てはまると主張する気だったらしい」
「……」
本条くんの言葉をひとつひとつ、わたしは必死で噛み砕いた。
わたしに近づいた……ルールが破られた、って……。
その言い方じゃ、まるで……。
「……えと。もしかして、……」
ひとつの結論に辿り着いて、わたしは自分の指先をぎゅっと握った。
「……絡まれた生徒って、わたしのこと、なの……?」
恐る恐る尋ねると、本条くんはコクリと頷いた。
その表情に、少しだけ躊躇うような色が浮かぶ。
「記憶が曖昧なのは、薬の影響かな」
本条くんがひとりごとみたく、低く呟いた。
その内容に、ズクン、と心臓が嫌な音を立てる。
『平石澪奈ちゃん?』
耳の奥で蘇る声。
急激に、体温が奪われていく。
『ちょっと話があんだけど、ついてきてくれる?』
頭の中の靄が、ゆっくりと晴れていって。
『手荒な真似したくないからさ。大人しくしろよ』
――そうだ。
「……思い、出した……」
わたし……帰り道になぎ高の生徒に呼び止められて。
逃げられなくて……。