Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
なにかを飲まされたのは覚えてる。
本条くんも、薬だって言ってた。
あのタブレット……錠剤? がどんなものなのかは、よくわからないけど。
わたしが途中で身体を動かせなくなったのは、……きっと、その薬とやらのせい。
でも……。
見ず知らずの人の感触を、わたしは少しでも受け入れようとした。
その事実が重くのしかかってくる。
考えること、抵抗することを放棄して。
身を任せようと……。
自分の身体が自分のものじゃなくなってしまったような、そんな感覚だった。
「大丈夫だよ。平石さんが気を失ってすぐ、助けに入れたんだ」
「……ほ、ほんと……?」
「うん。……平石さんが覚えてる以上のことは、なにもされてない」
「……」
どうしてそう言い切れるの?
助けに入れた、って……本条くんがきてくれたの?
わたしに勇気があったら、そう聞き返していたはずだけれど。
このときのわたしは、本条くんの話を受け止めるだけで精一杯だった。
大丈夫だって言ってくれるなら、それを信じたい。
少し触られただけ。
それだけ、だ。