Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
遠回しに、「訊くな」と言われたみたいだった。
一線を引かれたような感覚。
その向こうに、安易に踏み込んではいけないような気がした。
きっと、わたしからは程遠い、知らない世界の話……。
さっきの憶測は、……そう大きく外れているわけではないのかも、しれない。
「ううん……だい、じょうぶ」
ぎこちなく首を振ったわたしに、本条くんは口元を綻ばせたまま、小さく息をこぼした。
「……ま、あんなことがあって、いきなり心配はいらないって言われても、すぐには納得できないよね」
「……」
「念のため、しばらくは移動にうちの車を使って」
「……え?」
「そのほうが安全でしょ?」
「いや、そんな……っ。そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ……!」
「だから、遠慮しなくていいって」
「で、でも……」
「俺の連絡先……知らないか。あとでライン教えて。運転手の番号も送るから。それ宛にメッセージ入れれば動いてくれる」
なんでもないことのように伝えられて。
その内容に呆気にとられてしまう。
やっぱり本条くん……わたしとは住んでる世界が、違いすぎるや。
「でも、まずは身体を休めたほうがいいと思う。学校のほうは気にする必要ないよ、父さんが上手いこと連絡いれてくれるし」
「……」
「今回起きたことの詳しい状況を把握してるのは今のところ、俺の身近な人間だけだから。平石さんが嫌だったら、事情を伏せることもできるよ」
「……」
「あとは……さすがにもう大丈夫だとは思うけど。万が一、またなにかあったら、すぐに言って。……些細なことでもね」
「……、あの」
「ん?」