Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



「どうして……?」



つらつらと、親身な言葉がけをしてくれる本条くん。

ものすごくありがたいけれど、……なんだか釈然としない。

ずっと尋ねずにいたことを、わたしは思い切ってぶつけてみる。



「どうして本条くんは、わたしなんかのために、ここまでしてくれてるの……?」



おずおずと視線を上げると、本条くんと見つめ合う形になった。


今まで、接点なんてなかったんだ。

同級生としての、純粋な心配からきてる行動じゃないことくらいはわかる。

ただのいち生徒にすぎないわたしに、ここまで責任を負うような対応、いくらなんでも不自然だ。


他に考えられるのは……本条くんのお父さんである、理事長の指示?

今回のことを学校側の問題にしたくないから、騒ぎ立てないよう、被害者のわたしを丸め込もうとしてる?


……うん。

それがいちばん、しっくりくる。


本条くんが、わたしとなぎ高の人たちについての連絡を受けたのだって……。

いったいどういうルートで?

なぎ高の人たちの動向を見張るか、わたしを見張るかしないと、すぐに助けに駆けつけるなんてできっこない。

……助けに入ったタイミングについて、本条くんが嘘をついているなら話は別だけど……。

よくよく考えたら、気になることだらけだよ。


どうやら、頭が落ち着きを取り戻してきたみたい。

すうーっと冴え渡ってきた。


一方で、黙り込んでしまった本条くん。

綺麗な瞳を、探るようにこちらに向けている。

その奥で、静かに考えを巡らせているように感じられた。



「……なにか、おかしいかな」



やがて、思わず口からこぼれてしまった、というような。

落ち着いた声が、本条くんの口から落とされた。

< 41 / 92 >

この作品をシェア

pagetop