Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「どうして……?」
つらつらと、親身な言葉がけをしてくれる本条くん。
ものすごくありがたいけれど、……なんだか釈然としない。
ずっと尋ねずにいたことを、わたしは思い切ってぶつけてみる。
「どうして本条くんは、わたしなんかのために、ここまでしてくれてるの……?」
おずおずと視線を上げると、本条くんと見つめ合う形になった。
今まで、接点なんてなかったんだ。
同級生としての、純粋な心配からきてる行動じゃないことくらいはわかる。
ただのいち生徒にすぎないわたしに、ここまで責任を負うような対応、いくらなんでも不自然だ。
他に考えられるのは……本条くんのお父さんである、理事長の指示?
今回のことを学校側の問題にしたくないから、騒ぎ立てないよう、被害者のわたしを丸め込もうとしてる?
……うん。
それがいちばん、しっくりくる。
本条くんが、わたしとなぎ高の人たちについての連絡を受けたのだって……。
いったいどういうルートで?
なぎ高の人たちの動向を見張るか、わたしを見張るかしないと、すぐに助けに駆けつけるなんてできっこない。
……助けに入ったタイミングについて、本条くんが嘘をついているなら話は別だけど……。
よくよく考えたら、気になることだらけだよ。
どうやら、頭が落ち着きを取り戻してきたみたい。
すうーっと冴え渡ってきた。
一方で、黙り込んでしまった本条くん。
綺麗な瞳を、探るようにこちらに向けている。
その奥で、静かに考えを巡らせているように感じられた。
「……なにか、おかしいかな」
やがて、思わず口からこぼれてしまった、というような。
落ち着いた声が、本条くんの口から落とされた。