Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
……本条くんの言ったように、なんの心配も要らなかった。
驚くほどいつも通りに、なにごともなく時間がすぎていって。
このままいけば、まるでなかったことのように忘れられる気さえした。
結局、なぎ高の人たちの言っていた『頼みたいこと』とはなんだったのか。
どうして本条くんは、わたしのことを助けることができたのか。
どうやってなぎ高の人たちと『話』をつけたのか。
……そもそも、聡学となぎ高の普通じゃなさそうな関係は、いったいどういうものなのか。
考えたら次々と浮かんでくる不明点はそのままに、触れずに閉まっておくことにした。
そうして目を背けていれば、平穏はわたしから逃げないでいてくれたから。
本条くんがわたしとの間に引いてくれた、一線を。
越えようなんて、わたしが、思わないかぎり、――。