Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「んと。……それって、褒めてるの?」
「もちろん」
「本条くんの感性って、なんだか変わってる、よね……」
「そりゃどーも」
……わたしのほうは、褒めたわけじゃないんだけど……。
なんて口に出したら、倍にして返されるのが目に見えているので、言わないでおく。
穏便に済ませておいたほうが身のためだ。
さっさとイジワルモードから切り替わった様子の本条くんは、
「本当にただの不審者だったらいいんだけどね。確証はないから」
体勢を戻して、神妙な顔つきに変わる。
「やっぱり、なぎ高の人かもしれないって、こと?」
「さっきも言ったけど、その可能性は低いかな」
「……? それじゃあ……」
「その他の誰か、っていう可能性もある」
——え?
なぎ高の人でもない……不審者でもない……“誰か”?
その響きは、得体の知れない不気味さを纏い、わたしの背中をゾワリと撫でる。
「ど、ういうこと……?」
なぎ高の人たちがわたしに接触したのは、イブキくんと関わりがあったから、という理由があったはずで。
その他の人までわたしに目をつけるかもしれない、なんて……。
そんなの、いったいどうして?
その他の誰か、だなんて、枠組みが広すぎるよ。
全然、わかんないよ。
わたしがなにをしたっていうの。
「ね、本条くん……なにが起きてるの? わたし、ほんとになにもわからなくて……どう、したら……」
見えないものに追いかけられているような圧迫感。
その重圧にじわりじわりと押し付けられるように、息苦しくなってくる。