Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
彼は忘れていたのか、思い出したように「ああ」と小さくこぼす。
離されるのかもって思ったけれど。
さらにぎゅっと力を込められて、ふたつのブランコの距離が少しだけ縮まった。
「嫌?」
……嫌とかじゃ、なくて……。
なんでこうしてるんだろう、って考えずにはいられなくて、落ち着かない。
恋人でもなければ、昨日はじめて会った人だから。
こんな状況、普通じゃないと思う。
どう返事をすればいいか迷っていると、
「俺は離したくねーけど」
なんの恥ずかしげもなく、さらりと言われた。
「……離そーか?」
「……」
そんな訊き方、……ずるい。
窺うような目を向けられて、わたしは耐えきれずに斜め下を見る。
彼はそれを答えだと受け取ったのか。
さっき強まった力が、緩められてしまって。
——わたしは慌てて、彼の手を引き止めるように握り返した。
「嫌なんじゃ、なくて。……どうしてかなって、気になっただけ、です」
弁解するように説明すると。
「あーね」
満足げに、再びしっかりと繋ぎ直された。
指輪の固くて冷たい感触が伝わってくる。
「理由は、……俺が、お前に触りてーから」
「っ」
「それだけ」