【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「どんなに粋がったって、僕はやっぱりまだ子供で……、学園長のように余裕なんて持てない。いつアーリアを取られるかと、ビクビクしてる」

 いつになく素直に弱音をこぼすセドリックに驚いて、後ろを振り返ろうとしたわたしを、彼はそっと押しもどした。

「こっち、見ないで。情けない顔してるから」

「セドリック……。わたくしにはあなただけよ。ありえないわ」

「……僕は、ずるいよね」

「ずるい?」

「アーリアが、幼い僕を邪険にできないのがわかっていてつきまとったし、ヒューバート兄上に婚約を破棄されて傷ついているところにつけこんで、無理やり婚約して、結婚した……」

「今は、あなたを愛しているわ。それは本当よ」

「うん。ありがとう。……この焦りは、自分への罰かもしれないと思っている。アーリアの気持ちが僕へと自然に向かってくれるのを待てずに、強引にあなたを手に入れたことへの」

「そんなこと……」

 否定して慰めようとしたわたしの言葉を止めるように、セドリックが髪に手を差しこんだ。結い上げた髪が乱れて、ひと筋はらりとこぼれる。

 そして、セドリックは顔を上げると、力強く言った。

「でも、僕は絶対にあきらめない。もっと努力して、アーリアにふさわしい男になるから。……それまで、待っていてくれる?」

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