【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 わたしのあごに手を添えて、セドリックが口づけてくる。

「セドリック、だめ、見えてしまうわ!」

「大丈夫。見えないよ。音は……聞こえているかもね」

 その時、気づいた。
 エドワードが鏡越しに聞き耳を立てている。小さな音を聞きもらすまいと集中している表情だった。

 ごめんなさい、エドワード。そんなつもりはなかったけれど、あなたを弄ぶようなことになってしまったのかも……。

「……セドリック……」

 セドリックはわたしを強く抱きしめてきた。
 わたしもセドリックの肩に腕を回して、ピンク色の薄い唇に口づけた。

 わたしが愛しているのはセドリックただ一人だけれど、鏡を見つめるエドワードの切ない瞳が心に残っていた。

 もしかしたら、本当に好かれていたのかもしれない……。

 その気持ちに応えることはできないけれど、エドワードはこれからも自分の衝動を抑制してくれる気がした。
 それなら、エドワードの心は知らないままでいたい。欺瞞かもしれないけれど。

「アーリア、愛してる。……あと一度だけ、口づけていい?」

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