【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「しかも、ヒューバート殿下は正式に陛下のお許しを得てはいなかったというではありませんか」

「なんだと! それはどこの情報だ。陛下はそのようなことは仰っていなかったぞ」

「ふふ、それはそうでしょう。身内の恥ですから。まずは、そのあたりから攻めていけばよろしいのでは」

「そうだな……。アーリア、おまえの仇はわたしが取るから安心しなさい」

 お父様はわたしを見てうなずいた。お母様も微笑んでいる。その微笑みにちょっと凄みを感じるのは気のせい?

「いえ、お父様、わたくしはもう……。領地にでも戻って静かに暮らしたいですわ」

「なんと優しい娘だ。アーリア、何も心配しなくてもいい。お父様がよい縁談を必ず見つけてくるからな」

 ほんのり涙ぐむお父様に、お母様が優雅な口調で斬りかかる。

「いやですわ、あなた。ヒューバート殿下との婚約もあなたが決めたことですわよね」

「…………」

 お母様はわたしに向き直り、ふっと視線をゆるめると、今度こそ穏やかな深い声音で言った。

「ねぇ、アーリア。あなた、ひそかに想う方はいないの? 伯爵家の都合で散々振りまわしたのですもの。お母様は、あなたには好きな方と幸せになってほしいのですよ」

 好きな人……?

 一瞬『愛しています』と頬にふれた幼い唇を思い出したけれど、いやいやと首を振った。

「ずっとヒューバート殿下の婚約者だったのですもの。想う方などおりませんわ。本当のことを言えば……婚約についてはしばらく考えたくありませんの」

「そうか、そうだな。アーリアは結婚などせず家にいてもいいのだぞ」

 お父様がなんだかほくほくした顔で言うと、お母様がまた冷たい笑みを浮かべた。

「あなた。……そう言えば、王家内部の情報はセドリック殿下からお伺いしましたの。いずれお礼を申し上げませんと」

「なん、だと……」

 ぐっと歯噛みをしたお父様。
 やっぱりもうご存知よね、セドリックの求婚。使用人たちの前であれだけ派手にかましたものね……。

 わたしはまだ少し体調が優れないからと言い訳して、慌ててその場を立ち去った。


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