【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
妖精はやがて男になる?
風にあたって頭を冷やそうと庭に出た。
早咲きの春の花々がちらほらと庭に色彩を添えている。わたしはメイドを下がらせ、中庭の東屋で一人お茶を楽しんでいた。
物陰からぴょこりと現れたのは、ほわほわした金色の髪の毛。
「……セドリック殿下?」
「見つかっちゃいましたね」
てへ、と美少年だけに許される、あざとい仕草。でも、可愛いから許しちゃう。
……って、言ってる場合じゃなかった!
この子、わたしに求婚して頬にキスしたんだよね!?
「お見舞いに来たの。もう具合は大丈夫?」
「殿下」
心配そうに顔をしかめたセドリックが長椅子の隣にぴたりと体を寄せて座ってくる。人前ではないせいか、昔のように口調が少し砕けている。
しかし……あの、オウジサマ? ちょっと距離が近くないですか?
視線でとがめると、
「誰もいないから。あなたが一人になりたいと言ったのでしょ」
セドリックはにっこりと笑った。だから、近づいてもいいって意味じゃないんだけど。
なんだか無邪気な笑顔がうさんくさく思えるのは気のせいかしら? いや、セドリックはピュアで可愛い天使だったはず。