【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
婚約報告のごあいさつ
「アーリア、お願い。少しだけでいいから、ちゅーさせてほしいの」
王宮へ向かう馬車の中。
わたしの横に座ったセドリックは、上目遣いで甘えた声を出した。ほわほわした柔らかな金髪の間から、透きとおった青い瞳がわたしを見上げる。
うっ、可愛い。天使だ……。
でも、言ってることはおかしい。顔と合ってない。
「セドリック様、いけませんわ。まだ結婚したわけではありませんのよ」
めっと眉をしかめてみせる。
可愛くおねだりすれば、許されると思ってるでしょ!?
わたしたちはセドリックの両親――つまり国王陛下と王妃殿下に婚約の挨拶をするために王宮へ向かっている。
そう、セドリックの求婚からひと月、異例の早さでわたしたちの婚約は成った。まるで何かに追い立てられるかのように。
第三王子の婚約者が、その兄、第二王子の元婚約者で、しかも十歳も年上っていいのだろうかと思ったのだけど、なぜかトントン拍子で進んでしまったのだ。