【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 この愛らしい少年が新しい婚約者なんて、なんだか不思議……。

「アーリア……」

 きゅるんとした青い瞳がうるうると潤む。
 んもうーっ! 可愛いんだから!!

 わたしは負けた。

「もう……少しだけですよ」

 わたしが目を閉じると、ちゅっと柔らかいものが唇にふれた。

「アーリア、可愛い」

 ふたたび目を開けると、セドリックがにっこりと黒い笑顔を浮かべている。
 ん、黒い、笑顔? 見間違いかしら……。

 その時、馬車が速度を落とし、ゆっくりと止まった。外から恭しく声がかかる。

「セドリック王子殿下、クラークルイス伯爵令嬢アーリア様、王宮に到着いたしました」

「……わかった。今、出る」

 セドリックは何事もなかったかのように冷静な声で応えると、わたしに向かって無邪気な微笑みを浮かべ、耳もとでささやいた。

「さあ、まいりましょう、愛しの婚約者殿」





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