【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 到着したのは、わたしが王子妃教育のために訪れていた居館よりも奥まったところにある別棟だった。

「よく来てくれたね、セドリック、アーリア嬢」

 にこやかに迎えてくれたのはハロルド王子だ。

 まぶしい金髪のセドリックやヒューバートと違って、平凡な褐色の髪にやや薄い茶色の瞳。
 穏やかそうな顔をしているが、わたしとの政略結婚を蹴って恋愛を選んだ情熱の人でもある。

「兄上! 僕の婚約者を連れてきました。僕の、婚約者です!!」

「二人とも婚約おめでとう」

 セドリックはハロルドにずいぶん懐いているらしい。あからさまに声がはずんでいる。

 ひととおりの茶会の用意をすませると、メイドたちが客間を出ていく。室内にはわたしたち三人と、扉の前に近衛騎士が二人残った。

「さあ、ここからは内輪の話だ。この近衛たちは私の信頼する者だから、遠慮はしなくてよい」

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