【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
再会は乙女ゲームのはじまり
『ざまぁ』とはネットスラングで『ざまぁみろ』の略語である。もちろん、前世の。
こっちにはそういう俗語はないが、概念は存在している。悪いことをした人に罰が当たるとうれしいとか、ひどい目に遭わされた相手が没落すると爽快だとか。
わたしがそんなことを思い出したのは、あの卒業パーティー以来初めてエマに出会ったからだった。
「あら……エマさん、お久しぶりですわね」
ピンクブロンドの髪を美しく結い上げたエマは、赤みがかった瞳でわたしを見て、小さく眉をしかめた。
「わたくし、今はエマニュエルと申しますの。過去の名前で呼ばないでくださいませ」
エマニュエル。
そういえば、そうだった。エマはヒューバートに嫁ぐため名門侯爵家の養女となり、名前も変わったのだった。ついでに爵位も、うちより上だ。
わたしは王子妃教育の中で洗練された、文句のつけようがない淑女の礼を取った。
「タウンゼント侯爵令嬢エマニュエル様、ご無沙汰しております。若草が芽ぐみ春も深まってまいりましたが、エマニュエル様におかれましてはご機嫌麗しゅうございますか」
「……くっ」
妃教育に苦戦しているという噂のエマは、悔しそうに唇を歪めた。