【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
ヒロインの選択
呆然としているうちに時が過ぎ、屋敷に帰らなければいけない頃合いになっていた。
「残念ですわ、アーリア様。またぜひお話しましょうね」
広い庭に面した回廊を並んで馬車に向かいながら、エマは愛らしく微笑んだ。中の人が、あんなアグレッシブな乙女ゲープレイヤーだとは信じられない。
わたしはショック状態が続いていて、上手く返事を返すことができないでいた。
そこに小走りでやってきたのは、なんとセドリックだった。
「アーリア!」
「セドリック様……?」
セドリックは上がった息を整えてから、少し他人行儀な顔でにこりと笑った。
いつもはどこで会っても全開の笑顔なのに、隣にエマがいるからだろうか。……わたしの気にしすぎ?
「アーリアがまだ王宮にいると聞いて、会いに来たんです。よかった、間に合って」
「まあ、わざわざありがとうございます」
何かを探るようにわたしをじっと見上げ、わずかに考える様子を見せたあと、控えめにたたずむエマに目をやる。
「……こちらのご令嬢は?」