【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 ぼんやりとしていたわたしを心配したのか、セドリックはわたしを自室に招いてくれた。

「馬車を待たせているのはわかっていますが、少しだけ」

「……はい」

「大丈夫、アーリア? 気分がよくない?」

「いいえ……なんでもありませんわ」

 セドリックがわたしを窓際に誘った。

 第三王子専用の中庭に面した大きな硝子窓の前には、背もたれが高めで、片側だけにヘッドレストのあるカウチが置かれている。庭を眺めながらリラックスするための椅子なのだろう。

「座って」

 この気持ちは、なんなのかしら。



 失いたくない。

 手放したくない。



 セドリックの無邪気な笑顔を。愛しそうにアーリアと呼ぶ声を。わたしにだけ向けられる熱情を。

「わたくし……そばにいたい。あなたの」

「アーリア、それって」

 隣に掛けたセドリックから、穴が開きそうなほど強い視線を感じる。

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